歯科の教科書[基礎]
5.歯周病・ペリオ

[歯科の教科書 基礎編]
5.歯周病、ペリオ

◆歯周病、ペリオとは?

歯周病は、歯の周りの歯周組織(歯肉・歯根膜・歯槽骨・セメント質)に炎症が起こる病気です。炎症が歯肉だけに留まっている状態を「歯肉炎」、炎症が歯槽骨や歯根膜等の歯周組織まで広がっている状態を「歯周炎」といいます。(歯周炎は以前歯槽膿漏(しそうのうろう)と呼ばれていました)
歯周病の特徴は、 痛みがなく静かに進行していくことです。
また近年、歯周病が糖尿病などの生活習慣病と関連していることも明らかになっています。このように、歯周病は口だけでなく、全身の健康の面からも予防していくことが大切といえます。

◆歯周病の進行過程

炎症が歯肉だけにある状態を「歯肉炎」といい、炎症が歯肉から歯槽骨や歯根膜にまで広がった状態を「歯周炎」といいます。歯周炎は進行状態により軽度、中度、重度に分類されます。

健康な歯周組織

歯肉の色は薄いピンク色で、引き締まっています。
歯と歯肉の境目に1~2mm程度の溝(歯肉溝)があります。

歯肉炎

歯肉溝にプラークがたまった状態が続くと、歯肉に炎症が起きて腫れるため、歯肉溝が2~3mmとなり、歯肉ポケットが形成されます。

歯周炎(軽度)

歯周病菌が歯周組織に侵入し、歯を支えている歯槽骨や歯根膜が破壊され始めます。
歯と歯肉の境目は歯周ポケットという病的な溝になります。歯周ポケットの中は歯ブラシで清掃できないので、プラークや歯石がたまってしまう悪循環がはじまります。

歯周炎(中等度)

歯茎の腫れや炎症が悪化し、歯周ポケットもさらに深くなります。歯周組織の破壊も始まり、歯肉退縮が見られるようになります。
歯周ポケットも4~7mmとさらに深くなります。

歯周炎(重度)

著しく歯槽骨は吸収され、歯はぐらぐらになってしまいます。歯肉からは出血、排膿もみられるようになり、口臭も気になります。

◆歯周病の原因

1)プラーク(歯垢)

プラークは多くの細菌が増殖してかたまりとなったもので、バイオフィルムとも言われます。歯周病細菌は歯周ポケットの中に存在し、毒素や酸素を放出して歯周組織を破壊していきます。
プラークを除去するには、毎日の適切な歯磨きと定期的なプロフェッショナルケアが欠かせません。

2)リスクファクター(危険因子)

歯周病を悪化させるリスクファクター(危険因子)として、口腔内の環境や生活習慣にも注意が必要です。プラークを増殖させたり、歯肉の炎症を悪化させたりする要因がリスクファクターとして考えられます。

(1)歯石
プラークを長期間放置すると、唾液中に含まれるカルシウムやリン酸などが沈着して石灰化し、歯石になります。歯石表面には細菌が住み、プラークが増殖しやすいため、歯周病を悪化させる要因になります。

(2)歯並び
歯並びが悪いと磨き残しが多くなり、プラークや歯石が溜まりやすくなります。

(3)不適合な詰め物や被せ物
歯に合っていない詰め物や被せ物の周りにはプラークがたまりやすくなります。むし歯の原因にもなりますので注意が必要です。

(4)口呼吸
唾液には自浄作用などお口の中を健康に保つ役割があります。しかし、口で呼吸する癖があると、口の中が乾燥し、炎症の原因にもつながります。

(5)歯ぎしり
歯ぎしりによる横からの力が歯周組織にかかり、歯周病が悪化します。

(6)喫煙
タバコに含まれるニコチンは血管を収縮させて、歯肉にも血行不良をひきおこします。この血管収縮作用は炎症を抑え、腫れや出血という症状を現れにくくする働きがあります。つまり、歯周病になっていても症状に気付きにくく、知らぬ間に進行してしまうのです。
タバコに含まれる一酸化炭素は、歯周組織の酸素欠乏を引き起こし、歯周病細菌に対する抵抗力が低下し歯周病を重症化させます。
近年、加熱式たばこも多く流通していますが、喫煙習慣は歯周病に良い影響がないことは覚えておきましょう。

(7)食習慣
不規則な食事習慣、栄養の偏りは歯周組織の抵抗力を弱め、全身の健康に悪影響を与えます。甘いもの、やわらかいものにも歯周病の原因であるプラークを増殖させやすくしますので注意が必要です。

◆歯周病と関係のある全身疾患

1)糖尿病(ダイアベティス)

歯周病は糖尿病の合併症の1つに挙げられています。近年、歯周治療で血糖値が改善されることがわかってきており、糖尿病と歯周病の治療で医科と歯科の連携が行われています。

2)呼吸器疾患

誤嚥性肺炎(嚥下性肺炎)は、飲み込むときの障害によって口の中の細菌が誤って気管に入り引き起こされる肺炎です。特に、高齢者では物を飲み込む際の嚥下反射が衰えるため、誤嚥性肺炎を引き起こす危険性が高いことがわかっています。

3)早産や低体重児出産

歯周病にかかっている妊婦では「早産」や「低体重児出産」の危険性が高いことがわかってきています。

4)心疾患

歯周病にかかっている人では「冠状動脈疾患」などの心臓血管疾患になる危険性が高いことがわかってきています。

5)脳血管疾患

歯周病にかかっている人では「脳卒中」などの脳血管疾患になる危険性が高いことがわかってきています。

◆歯周病の予防方法・対処方法

近年、生活習慣が歯周病を引き起こしたり、悪化させたりするリスクファクターであることがわかってきました。
歯周病を予防・改善していくには、口腔内の環境はもちろん、生活習慣を見直してリスクファクターを減らし、全身の健康状態をととのえていくことが大切です。

1)セルフケア~丁寧な歯みがき~

歯周病を予防するには、原因となるプラーク(歯垢)をきちんと落とすことが基本です。

2)プロフェッショナルケア~定期健診

歯周病は痛みも少なく進行していくので気づきにくいものです。
歯科医院で定期健診を受けることが大切です。