経営の知恵袋

[レポート]「予防歯科シンポジウム&“か強診”サミット」1 予防の時代から定期継続管理の時代へ ~か強診をいかに定着させていくか~

「予防歯科シンポジウム&“か強診”サミット」が2023年6月10日・11日の2日間にわたって、沖縄コンベンションセンターで開催されました。講師39名、約450名の参加者のもと久々に行われたシンポジウムの内容を、会場に参加したメディカルアドバンスの桑原が2回にわたってレポートします。

今回の「定期管理型予防歯科医院の作り方 第3回 シンポジウム」は、2006年の第一回、2009年の第二回開催以来、実に14年ぶりの開催となりました。

この間2016年の診療報酬改定を機に「かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(か強診)」が導入され、従来のシンポジウムに加え、か強診を取得している歯科医師が自院の取り組みについて語る「か強診サミット」も同時開催されました。

新型コロナウイルスの流行も重なり、か強診の目的でもある「重症化予防における定期管理の大切さ」を考えるように歯科業界における意識変化が浸透した数年間だったのではないでしょうか。

MEMO

か強診=かかりつけ歯科医機能強化型診療所とは、う蝕や歯周病など歯科疾患の重症化を予防し、歯の喪失を防ぐため定期的なメンテナンスを行える歯科医院を厚生労働省が評価する新しい制度です。

治療中心型から、生涯を通じて歯科疾患の重症化を予防するために新設されました。か強診は、かかりつけ歯科医が常駐し「地域と連携し、幼児から高齢者まで必要に応じた歯科医療が提供できる」と国がお墨付きを与えた歯科診療所です。

基準を満たすには装置器具や過去1年の診療実績など様々なハードルがありますが、か強診の届出数は年々増加し、現在は10,000施設以上が届け出しています。団塊の世代が後期高齢者となり、医療費がますます増えることは確実な状況で、か強診をはじめとする歯科医療が国民の健康な生活を守るためにさらなる活躍が期待されています。

ここからは初日の講演プログラムから抜粋してご紹介します。「予防歯科」と「か強診を臨床にどう生かすか?」という2つのメインテーマに、多くの先生方がそれぞれのお立場から講演されました。

 特別講演1 『発達障害に歯科ができること』

特別講演では、「発達障害に歯科ができること」と題し、子供の発達障害に歯科分野からアプローチできることを日本歯科大学名誉教授・丸茂義二先生からお話しをいただきました。

一見関係の無いようにも思える発達障害と口腔機能について実は相互関係があり、正しい口腔機能を回復させることから患者さん一人ひとりの発達を促すことができるという内容。実例の動画を交えながらご説明いただく大変興味深い講演でした。

 特別講演2 『人口13万人の地方都市で模索する医療連携について』

つづいて第二部では、康本征史先生が新たに開業する「福祉と医療の杜 うるまこどもステーション」について、中村正人うるま市長が地方都市の抱える医療提供の問題と対策について講演されました。かつて健康長寿の町と知られたうるま市ですが、現在では他の地域同様に少子高齢化、児童福祉の充実が叫ばれるようになっているとのこと。中村市長は、うるまこどもステーションを地域の医療機関連携のモデルとして、地域で支えあう姿を目指しています。地方都市から発信されるモデルケースとしての発展が期待されます。

 午後は7つのセミナールームに分かれて講演会を実施

昼食後は7つのセミナールームで、若手からベテランの先生方まで普段の診療スタイルを紹介し、自分の診療と関連付けて熱心に受講される先生方の姿が印象的でした。これまで当社が内覧会をお手伝いした先生方も数多く登壇されています。

◆医療法人社団 佑健会 理事長 河野 恭佑先生

河野先生のメッセージのひとつが「100年続く組織づくり」です。実現のために院内に向けた施策として「自分でできることはなんでもやる(掃除や挨拶)を徹底した」と語ります。施策と言っても費用をかけずにできることもあると強調されていました。こうした院内向け施策があってこそ、広報など外部向けのマーケティングが活きてくると河野先生は指摘します。

これからの歯科医院は、大型の医療法人か専門性の高い歯科医院に2極化するとも予想する河野先生。スタッフ教育に注力を続け、新たな医院を次々と作るのは、多くの人に幸せに働いてほしいという思いがあるからだと解説してくださいました。

◆医療法人社団ALBA 理事長 熊木 淳雄先生

リーダーシップ、マネジメント、チームビルディングの3本を柱に無借金経営で15院を経営する熊木先生は、「会社のお金をみんなのお金と考えること」が大切だと語ります。
今後は海外展開を視野に入れて、10年後までに100院を展開し最高の医療チームを作りたいと大きな目標を話してくださいました。これが熊木流【目標突破の方法】で、1:目標を人に言う、2:人に助けてもらう、3:あきらめないことが秘訣とのこと。歯学部の経営や政治家になることも将来のビジョンに掲げていらっしゃいます。

◆医療法人育成会 理事長 柿崎 陽介先生

近年の乳幼児健診では、むし歯が少なくなっている一方で、乳歯の叢生や過蓋咬合などの問題が増えています。前歯を使わない食事習慣の結果、歯槽骨も育たず叢生や発育空隙のない歯列、また過蓋咬合では下顎の発育不全も疑われ、口呼吸になっている子も見受けられます。
柿崎先生は「食べることは、生きること」をスローガンに掲げ、子どもたちが上手に「噛める・食べられる・呼吸できる」ようになるために、併設保育園での食育や口腔機能育成の実践を通して、子どもたちの健康にアプローチされています。
産休・育休を経たスタッフさんが戻ってこられる職場づくりを行い、子育て経験のあるスタッフさんによる患者さんへの説得力を引き出して、成果を高めているとのことでした。

◆医療法人生きる会 理事長 白鳥 裕一先生


2016年に運営方針をがらりと変えた白鳥先生の医院では、自費診療8割と予防を中心にか強診として医療を提供しています。
初診時に唾液検査、口腔内写真、全顎デンタル、治療開始の前の徹底したTBIなどを全患者さんに行う改革を断行したものの、当初は全く患者さんに受け入れられず、初診患者数は激減し、既存患者さんも離反したそうです。それでも本気で「患者さんが健康なお口でいられるよう、安心安全で質の高い歯科医院を目指す」と決め、質の高い治療と予防の提供を続けました。その結果、徐々に評判が高まり今では現在は自費率80%、歯科医師3名、衛生士4名で忙しく診療する医院に成長しました。
周りの業者さんが「本当に勧めたい歯科医院」だと認識してくれたからだと、白鳥先生は分析しています。

◆株式会社 Tomorrow Link 代表 歯科衛生士 濵田 智恵子先生

歯科衛生士/歯科臨床コンサルタントとして活躍する濱田先生は、DHの「継続管理における重要な視点」と「今後の展望」というテーマで講演。
予防歯科が浸透してきた中で、歯科衛生士がPTCだけをする「お掃除屋さん」となってしまう現状に疑問符をつけます。一方で、継続管理のポイントとして、主観的情報と客観的情報を常にアップデートし、フレッシュな患者さんの要望や不安を知ることが大切だと話していました。さらに歯科衛生士の働き方における展望についても持論を語ってくださいました。

◆康本塾で相互成長される先生方も登壇

康本塾は、康本先生が主宰する全国の中~大規模歯科医院を対象とした勉強会です。規模が大きいだけでなく『チーム医療を行う組織作り』『効率的で生産的な組織運営』を目指しています。そのため「院長一人で頑張るモデル」から脱却して、さらに成長したいという先生方が定期的を行い、自由なディスカッションを通じて相互成長しているのです。

メンバーである医療法人社団 創世会の伊藤 創平先生は、「か強診をとりなさい!」という康本先生のアドバイスをもとに、診療方針を見直して保険診療を強化したところ、SPTが原動力となり売上拡大を果たしたと言います。

医療法人輝笑会 いちき歯科の市来 正博先生は、ネガティブな感情に陥っていた自分を康本先生の言葉が救ってくれたと振り返ります。患者さんの「食べる」を守るために歯を治療するだけでなく、笑顔や幸せのために尽くしたい、そのためにスタッフがハッピーであることを掲げ「この仕事は天職」と言い切ります。

康本先生および康本塾の先生方は、取捨選択のバランスに優れていると、常々感じています。自身の歯科医院の中で閉じこもるのではなく、外部と積極的に関わり得られた学びを持ち帰る流れが好循環を生み出しているのでしょう。

 一人の歯科衛生士として聴講して

初日のセッションを聞いただけでも、どの講師の先生も「歯科業界を良くしていこう。日本国民の健康を考えよう」という気概に満ち、本気の言葉として発していることがひしひしと伝わってきました。

先生方の得意分野、医院の環境、ご自身のライフステージや向き合い方は千差万別なので、全てのお話しが興味深く、体験と試行錯誤に満ちたものばかりでした。

人生100年時代に歯科業界からどうかかわっていくかは重要なテーマです。子どもから、青年期、高齢期まで関われるアプローチの仕方があり、プロフェッショナル性を高めていく必要があるでしょう。「あそこにいけば大丈夫!」と言われる歯科医院になりたいという先生がさらに増えれば、健康な日本人も増えるのだと思います。

一方で、日々の診療で頭がいっぱいの先生方もいらっしゃるかもしれません。そんな先生にこそ、こうして他の歯科医院の事例や理念を知ることは自身を俯瞰するきっかけにもなるはずです。私自身も「明日からの仕事をもっと頑張ろう」と思わせてくれるすばらしい勉強会でした。

今回、院長がスタッフを同行させ一緒に学ぶ姿も目立っていたように思います。学びの機会をともにすることで、相互理解が深まり、得られるものも大きくなるのではないかと想像し、すばらしい取り組みだとも感じました。
歯科医師・歯科衛生士・歯科技工士・歯科スタッフ、それをサポートする歯科関連業者も常に同じ熱量をもって仕事をしたいと改めて感じる機会でした。
か強診の真の目的を実践できる歯科医院が増えることで、人生100年時代における歯科医院の承継や発展にもつながっていくことでしょう。

2日目のレポートに続く>>>