歯科の教科書[基礎]
4.むし歯・カリエス

[歯科の教科書 基礎編]
4.むし歯・カリエス

むし歯とは?

むし歯の原因

食事をすると、プラーク内の「むし歯菌」が食べ物に含まれる「糖」から「酸」を作り出し、口の中は酸性に傾きます。
この「酸」がエナメル質のカルシウムを溶かし始めることを「脱灰(だっかい)」と呼び、ここからむし歯が始まります。
カルシウムが溶けていくと、やがて穴(=欠損)になり、むし歯はどんどん進行していきます。

用語解説

プラーク:食べかすをもとに繁殖した細菌の塊。歯垢(しこう)とも呼ぶ。
歯石:プラークが唾液の中のミネラルと結合して硬化したもの。48時間程度で歯垢から歯石になる。
食べかす:専門用語で食物残渣(しょくもつざんさ)。
代表的なむし歯菌:ストレプトコッカス・ミュータンス菌
※プラークは歯磨きで落とせるが、歯石になってしまうと歯磨きで落とすことができない。

緩衝作用と再石灰化作用

プラークによって口の中が酸性(pH5.5以下)の状態が続くと、脱灰によってエナメル質表面のカルシウムがどんどん溶け出してしまいます。
人間のカラダはすごいもので、これらを自動的に食い止める働きを持っています。

それは、前回「唾液の働き」で出てきた緩衝作用と再石灰化作用です。

MEMO

緩衝作用:酸性に傾いた口腔内をもとに戻そうとする働き ※平時の唾液pHは平均6.8(中性に近い弱酸性)
再石灰化作用:溶け出したカルシウムやリンがエナメル質に戻ろうとする働き

このように口の中では、常に脱灰と再石灰化が繰り返されエナメル質を保っていますが、脱灰のスピードが再石灰化を上回ると、むし歯が進行してしまいます。
つまり脱灰させないように、プラークを口の中にとどまらせないことが重要なのです。
また、唾液が少ない場合も、緩衝作用と再石灰化作用がうまく働かないため、むし歯になりやすいため、注意が必要です。

むし歯になりにくい生活習慣

食事をする限り、脱灰を防ぐことはできませんが、脱灰を減らすことはできます。

むし歯になりにくい生活習慣
  • 口の中を中性に戻すためにダラダラ食べをしない
  • 食事後は歯みがきでプラークを洗い流す
  • 歯ブラシでは落としきれないプラークはフロスや歯間ブラシで落とす
  • フッ素入りの歯みがき粉を使用する

むし歯の進行

プラークによってエナメル質が脱灰され、むし歯が始まることはわかりました。
では、その後むし歯はどのように進行するのでしょうか?

進行の段階

むし歯は専門用語で「カリエス」と言います。
その頭文字をとって、むし歯の段階をC0〜C4と表します。
C0の読み方:しーおーorしーぜろ
C1の読み方:しーいちorしーわん …です。

C0:エナメル質の表面が脱灰しているだけ
C1:エナメル質が脱灰し一部欠損している
C2:欠損が象牙質まで及んでいる
C3:欠損が歯髄まで及んでいる
C4:歯冠が崩壊している

用語解説

TBI:衛生士業務の一つであるブラッシング指導(口の中を清潔に保つために患者さんへ行う指導)
F塗布:歯科医院でしか扱えない高濃度のフッ素を歯の表面に塗布すること

歯の構造の復習はこちら

むし歯の治療

むし歯の治療は、むし歯の進行の程度によって方法が異なります。

C0の治療

C0は、むし歯がエナメル質に限局していて欠損(穴)がない状態です。

そのため、歯を削るといった積極的な治療を行わず、「要観察」とするケースもあります。

「要観察」の際に主に行う対応は、TBIとフッ素塗布です。
TBI(ブラッシング指導)で、患者さんに適切な歯磨きの方法を知っていただき、毎日できる限り口の中を綺麗にリセットしてプラークを溜めない習慣を作ります。
フッ素塗布は、フッ素の3つの働きによりむし歯の進行を抑制します。

C1の治療

C1は、むし歯によりエナメル質が欠損していて、象牙質までには及んでいない状態です。
エナメル質には知覚がないため、痛みが出たりしみたりという自覚症状を感じることはありません。

C1は歯に穴が開いている状態なので治療が必要ですが、ケースによって「要観察」とすることもあります。
むし歯は、がんなどの病気と同じように年齢が若ければ若いほど進行が早いといわれています。

年齢や口腔内の衛生状況などを鑑みて、進行しにくいと歯科医師が判断した場合などはC1でも「要観察」となります。
ちなみに、乳歯は永久歯は歯の質が異なるため、永久歯と比較して乳歯の方が圧倒的にむし歯の進行が早いです。

C1で積極的な治療を行う場合は、一般的にCRが選択されます。
CR(しーあーる)とは、コンポジットレジン充填(じゅうてん)の略です。
コンポジットレジンとはプラスチックのことで、充填は「詰める」という意味です。
端的にいうとCR治療とは、「むし歯で空いた穴を綺麗に整えて、その場所にプラスチックを埋めて元の形に戻す」治療法です。

CRはペースト状になっていますので、それを粘土のように穴に詰めます。
形を整えたら、CR照射器で光を当ててプラスチックを固めます。

*CRの写真

歯医者の治療で「青い光を当てますね〜目を瞑っていてください」と言われたことはありませんか?
まさしくそれがCR照射器です。CR以外にも照射器を使うことがありますが、ほとんどの場合CRでしょう。

C2の治療

C2は、むし歯が象牙質にまで達している状態です。

象牙質には、象牙細管という歯髄に通じる管が無数に通っていて、知覚を感じます。
そのためむし歯が象牙質にまで及ぶと、冷たいものがしみたり、痛みが出たりします。

C2以降は要観察とせず、積極的な治療を行います。
歯の内部がむし歯菌に汚染され侵食されている状態ですので、侵食箇所を取り除かなければなりません。

C2の治療(何で穴を埋めるか)は、CRもしくはインレーが選択されます。
CRはペースト上でさまざまな穴の形に対応できる反面、プラスチックのため強度が弱いというデメリットがあります。
そのため、臼歯の咬合面など咬合力がかかる広い範囲に使用すると、割れたり欠けてしまう恐れがあるのです。

そこでCRの代わりに登場するのが、インレーです。
インレーとは、いわゆる「詰め物」と呼ばれているものです。

CRは削ってその場で詰めますが、インレーは「型採り」を行って、模型を歯科技工所に送り製作してもらいます。
このように、型を採って歯科技工所で製作してもらう詰め物、被せ物、入れ歯などを「技工物(ぎこう物)」「補綴物(ほてつぶつ」と呼びます。

参考までに「補綴」とは、学問の名前です。
院長が「補綴科」の出身であれば、これらの補綴物の専門家ということになりますね。
また、歯科技工士もこれらの補綴物を作るプロで、この分野に精通しています。

インレーとは、補綴物の形の名称です。
C3の治療で「クラウン」という名前が出てきますが、クラウンはいわゆる「被せ物」と呼ばれます。

インレーは歯の一部を覆う補綴物の名称、クラウンは歯全体を覆う補綴物を指します。
また、CR・インレー・クラウンなどで、歯の形を元に近い形に戻すことを「歯冠修復(しかんしゅうふく)」と総合的に呼ぶこともあります。

インレーはさまざまな素材で作られます。
保険では、いわゆる銀色の金属が使用されますが、昨今の保険制度の改定により必ずしも銀歯だけではなくなってきました。

素材の種類については、別の章で紹介します。
まず基礎編では「インレーは形の名前でC2の治療に使用。インレーはさまざまな素材で作ることができる」と覚えましょう。

C3の治療

C3は、むし歯が歯髄まで及んでいるため、歯髄まで感染している状態です。
むし歯菌に侵されてしまった歯髄は、残念ながら抜かなければなりません。

また、C3では激しい自発痛が出ます。
自発痛とは、噛んだり刺激を加えなくても(何もしなくても)痛い状態です。
「痛くてどうしようもない」と歯医者に駆け込む人や、歯が痛くて痛み止めを飲むという人はC3であることが予想できます。

歯髄はいわゆる「歯の神経」と呼ばれますが、実際は神経だけでなく血管も含まれています。
歯髄を抜くということは、通っている神経や血管が取り除かれてしまうことなので、栄養が行き渡らなくなり歯の寿命が縮んでしまいます。
神経を抜くことを専門用語で抜髄(ばつずい)と呼びますので、覚えましょう。

C3の治療は、抜髄を行い、その後感染してしまった歯髄腔(歯髄が入っている空間)を消毒します。
何度か消毒して歯髄腔がきれいになったら、歯が腐らないように防腐剤を詰めます。

歯髄腔を消毒することを「根管治療」、歯が腐らないように歯根に防腐剤を詰めることを「根管充填」と言います。
また、根管治療と根管充填を合わせて「歯内療法」と呼ぶことがあります。

C2まではむし歯が歯髄まで達していなかったため、歯内療法は必要ありません。むし歯を削って、歯冠修復までです。
C3、C4では歯髄が感染しているため、歯内療法を行い、その後歯冠修復を行います。

C3では歯冠のほとんどがむし歯に侵食されているため、インレーでは対応できずクラウンを選択します。
クラウンの中は空洞なので、強度を保つために歯根に土台(コア)を立て、その上にクラウンを被せるという段階を踏みます。

CRは削ったその日に詰められますが、C3までむし歯が進行してしまうと、むし歯を削る→抜髄・根管治療(複数回になることも)→根管充填→コアの型採り→コアのセット→クラウンの型採り→クラウンのセット…と簡単に書き出しただけでもかなりの工数がかかり、患者さんは何度も通院する必要があります。

また、むし歯の再発や歯根が割れてしまったりして、コアとクラウンがくっついた状態で抜けてしまうことがあります。いわゆる「差し歯」です。
差し歯は「コア+クラウンのこと。差し歯があるということは、その歯の神経はもうないんだな」と思えればOKです。

C4の治療

C4は、むし歯の最終段階で、歯冠が崩壊してしまっている状態です。

喪失歯の章で勉強しますが、たとえクラウンが被っていようと、ご自身の歯が残っていることに越したことはありません。
現代の歯科医療では、MI(最低限の侵襲)という考え方が浸透しているため「できるかぎり削らない・抜かない」という方針のドクターが多いです。
C4でも歯が保存できるのであれば、歯内療法+歯冠修復で凌ぎます。
ただ、歯冠の崩壊が酷かったり、歯根が割れてしまっている場合は保存ができないため、「抜歯」を検討することになります。